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仙台地方裁判所 平成8年(わ)82号 判決

裁判所書記官

淡路武夫

国籍

韓国

住居

宮城県遠田郡涌谷町字桑木荒一一九番地一

会社役員

大山徳秀こと文徳秀

一九四七年二月八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官佐藤主税及び弁護人高橋輝雄各出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六か月及び罰金三〇〇〇万円に処する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、宮城県遠田郡涌谷町字下道七番地一において、「ニュー南風」の名称でぱちんこ店を営んでいたものであるが、自分の所得税を免れようと企て、収入の一部を除外して仮名定期預金を設定するなどの方法により、その所得を秘匿した上、

第一  平成三年分の実際総所得金額が三六一一万五〇三〇円であったにもかかわらず、平成四年三月一〇日、同県古川市幸町一丁目二番一号所在の所轄古川税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が一八〇一万八九六一円で、これに対する所得税額が三八九万六八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一二一一万八〇〇〇円と右申告税額との差額八二二万一二〇〇円を免れた。

第二  平成四年分の実際総所得金額が一億一一〇五万〇〇二四円であったにもかかわらず、平成五年三月三日、前記古川税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が二七四九万八五〇五円で、これに対する所得税額が八八八万六五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五〇六四万二〇〇〇円と右申告税額との差額四一七五万五五〇〇円を免れた。

第三  平成五年分の実際総所得金額が一億六六七九万七六九三円であったにもかかわらず、平成六年三月一日、前記古川税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額が二八〇五万〇四二六円で、これに対する所得税額が九一〇万円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額七八三八万〇五〇〇円と右申告税額との差額六九二八万〇五〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

括弧内の甲乙の番号は記録中の証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。

全部の事実

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書二六通

一  大蔵事務官作成の銀行調査書、査察官調査書(二通)、現金調査書、預金調査書、商品調査書、貸付金調査書、減価償却資産調査書、出資金調査書、保険積立金調査書、支払手形調査書、買掛金調査書、借入金調査書、未払金調査書、未払給料調査書、預り源泉所得税調査書、事業主貸調査書、事業主借調査書、事業専従者控除額調査書、不動産所得調査書、雑所得調査書及び脱税額計算書説明資料(抄本)

一  検察事務官作成の電話聴取書

第一の事実

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲二二)

一  検察官作成の捜査報告書

第二の事実

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲二三)

第三の事実

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲二四)

一  検察事務官作成の捜査報告書

(法令の適用)

罰条

判示第一から第三の各行為 所得税法二三八条

刑種の選択 懲役刑及び罰金刑

併合罪加重 刑法四五条前段、懲役刑につき刑法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第三の罪の刑に法定の加重)、罰金刑につき刑法四八条二項

懲役刑の執行猶予 刑法二五条一項

罰金刑の換刑留置 刑法一八条

(量刑事情)

本件は、ぱちんこ店を営む被告人が、平成三年から同五年分の所得税として納付すべきであった一億一九二五万七二〇〇円を脱税したという事案である。自宅新築等の資金欲しさから不正蓄財を決意した動機に格別酌むべき事由はない。脱税の手口もコンピューターの売上げデータを操作して売上げ除外し、除外した分は金融機関に架空名儀で預金したり、現金を隠匿保管するなどして過少申告したもので、巧妙かつ悪質であり、それにより一億一九〇〇万円有余の所得税の納付を免れた(ほ脱率平均約八四パーセント)結果も重大であり、長年にわたり日常的に行われていることから、この種事犯に対する法軽視の態度も認められる。以上によれば、その責任は重大である。

しかしながら、被告人も、本件発覚後においては反省の態度を示して、国税庁の調査に従って修正申告し、重加算税や延滞税を含めて、納付すべき税を完納していること、今後のために、店を法人化して、経理関係の体制を整備し、納税への過誤なきを期していること、前科がないことなど、被告人のために酌むべき事情もあるので、これらをも総合考慮の上、特に、その懲役刑の執行を猶予するのを相当と認める。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑-懲役一年六か月及び罰金三九〇〇万円)

(裁判官 千葉勝郎)

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